とくに、暫定税率の廃止や年収の壁の引き上げをめぐっては、人物評価や陣営論に引き寄せられやすく、肝心の政策の進め方が見えにくくなっている気がします。
まず整理しておきたいのは、石破氏と高市氏の政策目標そのものです。
・暫定税率の廃止
・年収の壁の引き上げ
・手取りを増やし、経済を回すこと
この点については、実は両者に大きな違いはありません。
少なくとも「減税そのものを否定しているか」という軸で見れば、単純な対立構造ではありません。
違うのは、政策を実行するまでの順番です。
順番の違いが、評価の分かれ目になる
石破氏のやり方は、こう整理できます。
制度の整合性を確認→財源や影響を精査→合意を積み上げたうえで実行
一方で、高市氏のやり方はこうです。
まず「やる」と政治が決断→その決断を前提に制度を後から整える
どちらが正しいか、という話ではありません。
ただ、順番が逆であることは事実です。
そして政治においては、この「順番の違い」が、そのままリスクの所在を変えます。
「まずやると決める」は、突破力でもあり、危うさでもあります。
「まずやると決めろ」。
この言葉は、停滞した政治を動かす力を持っています。
官僚や与党内調整に引きずられ、何も決まらない状況への苛立ちに応える言葉でもあります。
ただし同時に、こういう疑問も生まれます。
具体的な制度設計は誰がやるのか。
財源の整理はどこで決断するのか。
失敗した場合、誰が責任を取るのか。
この部分を政治が最後まで握らなければ、「まずやると決める」は、結果的に官僚への丸投げになりかねません。
高市方式が本来必要とする「セット政策」
ここで重要なのは、高市氏のやり方が成立するための条件です。
本来この方式を取るなら、次の政策は切り離せません。
減税
手取り増
消費や労働参加の拡大
名目GDPの成長
中長期的な税収増
移行期の財源処理
これらは単独ではなく、一括で設計されて初めて意味を持つものです。
減税だけ先行させても、経済が回らなければ税収は減るだけです。
景気対策だけ打っても、可処分所得が増えなければ持続しません。
実際に起きていること
現実の政策を見ると、この難しさははっきりします。
高市政権では、ガソリン暫定税率(1リットルあたり約25.1円)を2025年12月31日に廃止し、軽油分も2026年4月1日に終了する形で速やかに実行に移されました。
与野党合意に基づく減税法が成立し、税収減は国・地方合わせて年約1.5兆円規模とされています。
一方、年収の壁については、
つまり、高市方式は「勢い」だけで走れるものではなく、むしろ高度に設計されたパッケージ政策を前提とするやり方だということです。
なぜ「見えてこない」と感じるのか
多くの人が感じている違和感は、ここにあります。
方向性は語られる。
思想もはっきりしている。
しかし、
どの順で。
どの規模で。
どの期間で。
という実装の設計図が、外から見えにくい。
その結果、「減税」「積極財政」という言葉は強いのに、
「では実際に、どうやって回すのか」という問いが残る。
これは好き嫌いの話ではなく、政策としての完成度の問題です。
加えて、減税先行による財源不安を背景に、2025年12月時点では長期金利が一時2.1%を超え、約27年ぶりの高水準となっています。
財政リスクが、抽象論ではなく現実の数値として表れ始めている点も無視できません。
石破方式は地味だが、構造は読みやすい
一方で、石破氏のやり方は派手さに欠けます。
スピードも遅く見える。
歯切れが悪いと感じる人も多い。
ただし、
どこで調整し。
どこで責任を引き受け。
どこで実行に移すのか。
その構造自体は比較的読みやすい。
だからこそ、支持も不満も両方集まるのだと思います。
もう一つ見落としがちな点があります。
石破氏と高市氏は、強く対立しているように見えても、どちらも「自民党というチームで政策を進める」ことを前提にしています。
派閥や主張の違いはあっても、党を割ってでも実行するという立場ではない。
むしろ、同じチームの中で、異なる役割と異なる順番を担っていると見る方が現実に近いように思います。
なお石破氏は、過去に自民党を離党した経験を持つ政治家でもあります。
その経験を踏まえたうえで、現在は「党内で制度を回す」という現実的な選択を取っていると見ることもできると思います。
問うべきなのは「誰が本気か」ではない
この議論で本当に考えるべきなのは、
「誰が減税派か」。
「誰が裏切ったか」。
ではありません。
どの順番なら、日本の制度と経済が実際に回るのか。
政治は、どこまで設計責任を持つのか。
その一点です。
政治は「決断」だけで回るのか
減税は目的ではなく、手段です。
手取り増もゴールではありません。
経済をどう回し、どこに成長を作るのか。
「まずやると決める政治」と「先に整える政治」。
どちらが今の日本に合っているのか。
あるいは、どこを組み合わせるべきなのか。
答えは一つではありません。
だからこそ、人物評価や陣営論から一度距離を置いて、順番と設計を見る必要がある。
この視点が、少しでも考えるきっかけになればと思います。
参考
高市首相就任会見 https://www.kantei.go.jp/jp/104/statement/2025/1021kaiken.html
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